2004年8月20日
東京労働局  
   局長 奥田 久美 殿

                          東京春闘共闘会議   
                           代表委員 中山  伸

2004年度地域最賃の異議申出

1.この水準でよいのか
  東京地方最低賃金審議会は、本年度の最低賃金を1時間710円とする「答申」をおこないました。この「答申」は、2年連続据え置きの「答申」によって3年間1時間708円であった東京都最低賃金に2円上乗せするもので、中央最低賃金審議会の「据え置き目安」に対して、自主性を発揮し、最低賃金改善の意思を示すものとして評価できるものです。
  しかし、私たちが主張してきた、今年こそは大幅な引き上げの実現や生活保護費基準を上回る最低賃金へという要望には到底こたえるものとはなっていません。しかも、少なくともすぐに私たちが求める水準に達しないまでも、そうした改善に向けたプロセスについての示唆もありませんでした。
最低賃金法も「労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」(最低賃金法第1条)と記しているように、国民は、労働を通じて得る賃金で、その社会的な生活を維持し、この国の経済を支える重要な役割を果たしています。
「答申」された1時間710円では、「安定」どころか、生活を維持することができません。今年私たちの組合員が行った最低賃金「生活体験」では、職場の仲間との付き合いや恋人とのデートもままならないことが切々と語られ、その食生活は健康を脅かすものとなっています。健康を損なえばすぐに生活が破綻するものでもあります。
この5年間の改定された金額は、今年の2円を加えても12円に過ぎません。1円、2円の引き上げでは、生活保護基準に到達するには「百年河清を待つ」ことにもなりかねません。生活保護基準に達するためには、公租公課を勘案して月5万円以上の引き上げが必要です。桁が違いすぎます。8月19日の東京新聞は「この水準でよいのか」との社説の中で「今の水準が適切か」と問いかけています。
私たちは、せめて東京都最低賃金を時間額1,000円に引き上げるとともに、最低賃金法で決められている月額・日額表示を行うことを強く求めるものです。労働によって得た賃金で生活できる社会の構築に向けて、最低賃金が「働けば生活できる賃金」として設定されることを強く望むものです。


2.生計費基準を明確に
最低賃金法は、「労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び事業の支払い能力を考慮して定める」こととしています。この最低賃金法は、最低賃金に関するILO条約が、支払い能力論を退けていること、類似の労働者の概念に違いがあることや先進諸国がとっている全国一律の最低賃金になっていないなど極めて問題が多い法律です。この法律にもとづいて審議が行われる上で、何よりも重視しなければならないことは「労働者の生計費」の問題です。東京地方最低賃金審議会は労働者の生計費の基準というものについて示したことがあるのでしょうか。生計費の基準を明らかにして、最低賃金のあるべき水準についての真摯な論議と、その実現に向けたプロセスの策定に着手することが必要なのではないでしょうか。
生計費を考える上で、現在公的に明らかにされているのは、人事委員会の標準生計費です。人事院の単身者の標準生計費は月額122,120円(2003年4月)で、東京都人事委員会の単身者の標準生計費は月額143,670円(2003年4月)となっています。「答申」された1時間710円ではこの水準に到底到達できないのです。その標準生計費では、住居関係費は31,350円(東京都人事委員会)となっており、実生活でアパートを借りて生活している人から見れば標準生計費の算定基礎に疑問もだされているのです。
もう一つの指標は、生活保護費で東京都の15〜17才単身者の生活保護費は月額147,710円になります。生活保護を受けると国民年金の保険料免除、上下水道料金の免除、NHK受信料の免除、JR通勤定期乗車券の割引などの援護が実施されています。
さらに、民事再生法の個人再生手続きでは、単身者で23万円(公租公課負担修正・東京)の生計費が算定されています。
  最低賃金審議会が、労働者の生計費の水準を明らかにして、審議をやり直すことが必要です。

3.支払い能力論は、健全な経済とは無縁
使用者側は、中賃の審議の中で、「現下の経済情勢について先行きに明るさが見え始めているといわれているものの、地域、業種によって大きく差が見られ、大部分の地域や中小・零細企業はより厳しい状況が続いている」とし、「中小・零細企業の存続と雇用維持を第一に考えると、据え置きにとどまらず、引き下げの目安を出すことも念頭において」と主張しています。
しかし、問題は最低賃金で暮らしていけるのかどうかが重要な課題となっており、経済情勢が厳しければ生活できない賃金水準も由とすべきかどうかという問題です。
今日企業の社会的責任が国際経済ルールの中で重要な位置を占めつつあり、ILOもデーセントワーク(人間らしい労働)の実現をめざしています。日本経団連も「企業行動憲章」第4版において、「公正、透明、自由な競争ならびに適正な取引を行う」、従業員に「安全で働きやすい環境を確保し、ゆとりと豊かさを実現する」ことを謳っています。
そこでは、大企業が優越的な地位に乗じてはならないと強調するとともに、「取引先における法令遵守、労働安全衛生、環境基準などにも関心を持ち、それぞれが社会的責任を果たしていけるように努める」ことを求めています。また、下請法上禁止されている不当な買い叩き、受領拒否、返品、支払い遅延行為が起きないよう、法に十分留意するよう記しています。
生活できない賃金しか払えないということが企業の社会的な責任を果たしていることなのか、その責任を中小・零細企業の経営者に帰してよいのかも考えなければなりません。経済大国日本の実態が、重層的な下請け体制によって、中小・零細企業の企業活動に困難をもたらしていることは検討されているのでしょうか。低コストのつけを回せる「中小・零細の存続と雇用維持」ではなく、対等で適正な取引による「働けば生活できる賃金」を支払える中小・零細企業の発展の実現こそが求められているのではないでしょうか。
生活することが困難な賃金額を主張し、その額さえも引き下げようと「支払い能力論」を展開する経営者委員の皆さんにもう一度「公正な競争」「国民経済の健全な発展」について考え、「労働条件の改善」を図ってほしいのです。
国民は、労働を通じて社会生活を行い、その労働の報酬で生活を成り立たせています。「国民経済の健全な発展」は国民生活の安定があってこそ実現できます。労働の報酬である賃金が持っているこうした特長を踏まえて審議をやり直し、最低賃金の再引き上げを行ってください。
                                 以  上